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名古屋地方裁判所 昭和50年(行ウ)25号 判決 1978年4月10日

名古屋市千種区猪高町大字猪子石字交換一二四番地

原告

横地章

右訴訟代理人弁護士

伊藤和尚

外二名

名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地の三

被告

千種税務署長

鈴木洋欧

右指定代理人

松津節子

外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

被告が原告に対し昭和四七年一二月六日付でなした原告の昭和四四年分、昭和四五年分、昭和四六年分各所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

主文と同旨の判決を求めた。

第二、主張

(原告)

請求原因

一、原告は、中部電力株式会社に勤務するかたわら不動産の賃貸を行なつている者であるが、昭和四四年分ないし昭和四六年分の所得税について別紙一ないし三(課税処分表)の確定申告額欄記載のとおりそれぞれ法定期限までに被告に確定申告をなした。

二、ところが、被告は原告に対し、昭和四七年一二月六日付で別紙一ないし三の更正及び賦課決定額欄記載のとおりそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をなした(以下これらを「本件処分」という。)。

三、しかしながら、本件処分は次の理由により違法である。

1 原告は、本件係争各年度において、株式会社ポーラ化粧品本舗(以下「ポーラ本舗」と略称する。)に対し、名古屋市千種区猪高町大字猪子石字交換一二四番地所在の原告所有の建物(以下これを「交換所在の建物」という。)をポーラ化粧品猪子石営業所の用に供する目的で賃貸している。従つて、右賃貸建物にかかる什器備品費、建物減価償却費、旧建物の取りこわし損失、現建物の改築のための借入金利息等原告が負担した費用額は、不動産所得の計算上必要経費に算入されるべきものである。しかるに、本件処分においてはこれが算入されていない。

2 原告は、本件係争各年度において、名古屋市千種区猪高町大字猪子石字竹越五四番地所在の貸家住宅(以下これを「竹越所在の建物」という。)を所有しているが、被告は、右建物の附属設置物にかかる減価償却費の計算について租税特別措置法一四条による割増償却をしていない。また、右建物の取得価額についても本件建物が七二〇万円、附属設置物が二四一万七、〇〇〇円であるのに、これを誤つて前者を六一七万二、五〇〇円、後者を一〇七万二、〇〇〇円と認定している。

四、以上のとおり、本件処分は違法であるからその取消を求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は認める。同三、のうち、原告が猪高町大字猪子石字竹越に貸家住宅五軒を所有していたことは認めるが、その余の事実は争う。

被告の主張(本件処分の適法性)

一、総所得金額等

本件各係争年分の原告の総所得金額等とその算定根拠は別紙四ないし六(総所得金額等計算表)の被告主張額欄記載のとおりである(同表における原告申告額とは、確定申告書又は同申告書に添付された収支計算書に記載された数額である。)。

二、不動産所得金額

1 不動産所得にかかる総収入金額

本件各係争年分の原告の不動産所得にかかる総収入金額とその明細は、別紙七ないし九(収入金額明細表)記載のとおりである。

2 交換所在の建物にかかる収入金額

この建物については、以下に述べるとおり、原告には収入金額、必要経費がない。

右建物は、「ポーラ化粧品猪子石営業所」と称する事業に使用されている。そして、右営業所は、外部から見る限りにおいては、ポーラ本舗の事業所と目されるふしもあるが、実質は、本件係争年当時、原告の妻である横地良枝(本名横地貞子、以下「良枝」という。)が、ポーラ本舗の取扱うポーラ化粧品の受託販売業を営むための事業所であつた。良枝は、ポーラ本舗の従業員ではなく、独立の事業者であつた。

ところで、原告は被告に対し右建物につき不動産所得の収入金額があるとしてこれを申告しているが、その内容は、ポーラ本舗が受託販売事業所の家賃の援助金(この援助金は、その事業所の建物を事業を営む者自身又はその親族が所有しており、家賃の支払の必要がない場合においても支給されている。)として良枝に支給した金員である。従つて、右金員は良枝の営む事業に附随して生じた同人の収入金額であつて、原告の収入(賃貸料)となるものではない。

以上のとおり、原告が申告した右建物の不動産所得とするものは、良枝の事業所得の収入金額に算入すべきものであつて、原告の不動産所得の収入、金額に算入すべきものではない。

仮に、原告において、良枝がポーラ本舗から支給を受けた家賃の援助金の全部又は一部を良枝から受領していたとしても、それは原告の不動産所得の金額の計算上はないものとみなされ、同時に、当該収入を得るための必要経費も又ないものとみなされる(所得税法五六条)。

3 竹越所在の建物の不動産所得にかかる必要経費

(一) 公租公課

この建物にかかる公租公課の金額は別紙四ないし六の被告主張額記載のとおりである。

(二) 修繕費

原告が負担したこの建物の修繕費は、昭和四四年に日本石油輸送株式会社名古屋支店に建物を賃貸するにあたり補修をした費用七五〇円及び昭和四六年に三井東圧化学株式会社名古屋支店に賃貸している建物について行なつた修繕の費用七、〇〇〇円のみである。

(三) 借入金利子、移転費、取壊費及び資材滅失額

この建物について、資金の借入れ、移転、取壊等を行なつた事実はない。従つて、その必要経費は認められない。

(四) 備品、器具、什器及び厚生費

この建物は貸家住宅であり、賃貸のため備品、器具、什器が必要であつたとは考えられない。また、建物管理のため使用人等を雇傭していた事実もない。

(五) 減価償却費

この建物の減価償却費の明細は別紙一〇(減価償却費の計算明細等)記載のとおりである。同別紙中67の物件の取得価額は原告の申告額によつたものである。減価償却費の額は所得税法四九条、同法施行令一二五条に定める定額法により計算した。

原告が主張する割増償却額については、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法一四条二項において新築貸家住宅の割増償却の対象となる資産は、家屋及び特定の建物附属設備(同法施行令七条二項、同法施行規則六条二項)に限られ、構築物は右割増償却の対象とならない。

三、給与所得金額及び分離長期譲渡所得金額

右金額は、別紙一ないし三の更正及び賦課決定額欄記載のとおりであり、原告提出の確定申告書記載額を正当なものと認容したものである。

四、所得控除額及び源泉徴収税額

右金額は、別紙一ないし三の更正及び賦課決定額欄記載のとおりである。昭和四五年分の損害保険料控除額については、所得税法(昭和四九年法律第一五号による改正前のもの)七七条一項一号又は二号のいずれに該当するとしても、その限度額は一万円をこえることはないから、これを一万円と認定した。昭和四四年分及び昭和四五年分の扶養控除額については、原告の扶養親族は四名であるから、昭和四四年分については一人当り九万五、〇〇〇円に四を乗じた三八万円、昭和四五年分については一人当り一一万五、〇〇〇円に四を乗じた四六万円となる。その余の金額は、原告提出の確定申告書記載額を正当なものと認容したものである。

五、右の次第で、本件処分は適法である。

(原告)

被告の主張に対する認否

被告の主張一、については、原告の確定申告額の限度で認め、その余は争う。同二、の1は争い、同二、の2のうち、交換所在の建物がポーラ化粧品猪子石営業所の用に供され、良枝がその営業所長であり、原告が右建物の賃貸収入を不動産所得として申告したことは認めるが、その余の事実は否認する。同二、の3のうち、(一)の事実は不知、(二)の事実は金額については否認し、(三)、(四)の事実は否認し、(五)の事実は減価償却費の計算方法が定額法によるべきことは認めるがその余は争う。同三、四、のうち、原告申告額は認めるが、その余は争う。

交換所在の建物は原告の所有である。良枝は独立の事業者ではなく、ポーラ本舗の従業員であつた。良枝はポーラ本舗から固定給及び歩合給を受けており、年二回のボーナスももらつていた。営業所はポーラ本舗の営業所であり、借主であるポーラ本舗は貸主である原告に賃料を支払つていたのである。従つて、右建物に要した費用の額は原告の不動産所得の計算上必要経費に算入されるべきものである。

第三、証拠

(原告)

甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし六、第八、九号証、第一〇号証の一ないし七、第一一号証の一ないし一四を提出し、証人横地貞子の証言を援用し、乙第二号証の二、第五ないし第七号証、第一二号証の成立を不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。

(被告)

乙第一号証、第二号証の一・二、第三号証、第四号証の一・二、第五ないし第二五号証を提出し、証人佐藤武男、同大山義隆の各証言を援用し、甲第一ないし第三号証、第五、六号証、第八号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立を不知とした。

理由

一、請求原因一、二の事実(本件課税処分の存在等)は当事者間に争いがない。

二、原告が名古屋市千種区猪高町大字猪子石字竹越に住宅五軒(竹越所在の建物)を所有してこれを他に賃貸していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第八ないし第一一号証、第一三、一四号証、証人大山義隆の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一二号証によれば、原告の本件係争各年における右住宅賃貸による不動産所得の総収入金額は、別紙七ないし九(収入金額明細表)記載のとおり、昭和四四年分は一七三万三、三六〇円、昭和四五年、同四六年分はいずれも一五七万二、〇〇〇円であることが認められる。

三、原告は、交換所在の建物を原告がポーラ本舗に賃貸し、同社から賃料を得ているから、右建物に関する費用は原告の不動産所得の計算上必要経費に算入されるべきである、と主張するので、以下検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、第四号証の一・二、第二〇、二一、二五号証、証人大山義隆の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第五ないし第七号証、証人横地貞子の証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  交換所在の建物は原告の所有である。原告の妻・横地良枝(本名横地貞子)は、昭和三八年一一月ころからポーラ本舗が発売しているポーラ化粧品のセールスマンをしていたが、昭和四一年ころから右建物において「ポーラ化粧品猪子石営業所」を開設してその所長となり、ポーラ化粧品の販売にあたつてきた。

(二)  ポーラ本舗が発売するポーラ化粧品の販売経路は全国的系列を有するが、中京支店管内の場合には、別紙一一のとおり、中京支店から順次、格付けされた0(ゼロ)営業所、1(「1営」)ないし4営業所(「4営」)を経て販売される仕組みになつている。ポーラ化粧品猪子石営業所は、右のうち、「1営」(星ケ丘営業所)の下に位する2営業所(「2営」)に属し、下位の営業所をもたない末端の営業所であり、セールスマンが一〇人以上所属していた。

(三)  営業所長の業務は、下位の営業所を通じ、又は直接セールスマンを使つて、ポーラ化粧品の外交販売を行なわせること及びその附随事務を処理することである。

ポーラ本舗においては、営業所長はポーラ本舗の従業員であると同時に販売受託業者であるとし、商品(消費者に販売されるまではポーラ本舗の所有である。)と売上金の管理業務は従業員として行ない、その余の業務は販売受託業者として行なうものとしている。

ポーラ本舗から営業所長に対し、商品と売上金の管理業務に対する対価として毎月一定の固定額が給与名義で支給されている。本件係争年当時良枝が受けていた右固定額は月額一万円であつた。この金額は昭和三二年以来改訂されることなく据置かれていた。

しかしながら、営業所長の収入の大部分は、商品の売上高に応じて得られる歩合金である。その収入方法は、営業所長は毎月六回売上金を集計し、その中から右歩合金(次に述べる税額を差引いた額)を自己のものとし、残高を上位の営業所へ納入するという仕組である。上位営業所ないしはポーラ本舗においては、右歩合金は販売受託業者に対する外交員報酬であるとして所得税法二〇四条一項四号による所得税の源泉徴収をなし、傘下の営業所長に対し、右歩合金による収入は事業所得として所得税の確定申告をするよう指導してきた。そして、現に、良枝は、本件係争年当時における右歩合金による収入を事業所得として確定申告してきた。良枝の歩合金収入は、昭和四五年分が一五八万六、八六〇円、昭和四六年分が一九一万一、〇一七円であつた。

(四)  営業所長は、事務員を雇い、セールスマンに外交販売をさせており、人件費、事務費、通信費など営業所の運営に要する費用に充てるための管理費を上位営業所から受けている。右管理費の金額は当該営業所の売上高を主たる算定要素として算出される。右金額は通常当該営業所の実際の運営費用額には満たないが、その不足分は原則として営業所長個人の負担とされている。

(五)  営業所用の建物は、営業所長又はその親族の所有であるか或いは営業所長個人名で第三者から借り受けたものである。いずれの場合においても、営業所長は上位営業所から家賃援助金を受ける。右援助金額は営業所の売上高、建物の所在地域、広狭等を斟酌して定められた支給基備によつて算定される。約七〇パーセントの営業所においては、右援助額よりも実際の支払家賃額の方が高額となつているが、その不足額は営業所長個人の負担である。良枝は、本件係争年当時、月額一万二、〇〇〇円ないし一万八、〇〇〇円の家賃援助金を受けていた。

営業所内の備品、什器等は営業所長の所有であり、これに対して減価償却費などは支給されない。

(六)  営業所長は、商品の管理責任を負い、商品を滅失損壊したときは、その弁償責任を負う。商品は定価販売を立前とし、もし値引販売をした場合には、その差額は営業所長個人の負担となる。

(七)  ポーラ本舗ないし上位営業所は下位営業所長に対し、業務管理の指導や毎月の販売会議への参加を指示しているが、これは売上成績の向上のためにすぎず、これに従わなくても何らの制裁も課せられない。

(八)  新たに営業所長に就任するには、ポーラ本舗の定める一定の要件を備えれば任命されるし、また、これを退任することも自由である。

営業所長やセールスマンには、勤務時間の定めはなく、就業規則もない。他社の商品を取扱うことは禁止されているが、売先を指定されることもない。外交販売のため要するバス料金等の交通費はセールスマンの個人持ちである。消費者に対するサービス品の提供もセールスマンの負担である。

営業所長やセールスマンには賞与は支給されない。営業所長やセールスマンは、一般会社の従業員が加入している政府管掌の健康保険組合に加入することができないので、会費を拠出して共済事業団を設立し、加入者に対する医療給付、年金給付を行ない、一定要件を備えた加入者に対しては年二回のビーナスフアンドと称する給付金を支給している。

(九)  昭和四四年九月良枝の前記営業所において商品の在庫検査があり、雇客に対する売掛金を一時的に立替する為の資金が必要となつたので、原告は良枝のため、銀行から融資を受け、これを右用途に充用した。

(一〇)  前記営業所の建物が土地区画整理事業のため移転したが、昭和四四年一二月土地区画整理組合から支払われた右移転に伴う休業補償金一一万三、四〇〇円は良枝が受領しており、ポーラ本舗はこれを受領していない。

以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、良枝の活動の主たるものは、主体的にポーラ化粧品の受託販売業務を営むことであり、それに伴う計算の結果が成果に応じて同人に帰属するのであるから、良枝は独立の事業者たる地位に在り、交換所在の建物はこの事業のために同人によつて使用されていたものと認めるのが相当である。右建物が原告からポーラ本舗に賃貸されていたとはなし難い。

もつとも、良枝はこの受託販売業務のほかにポーラ本舗のために商品と金員の保管を行ない、その対価として毎月額一万円の固定額を支給されているのであるから、その点においてポーラ本舗の従業員たる地位をも併有していると認め得る余地があるけれども、前示認定の事実によれば、その業務は同人の前記受託販売業務に随伴して行われるものであつて、良枝がその営業に伴い、自己の営業所でポーラ本舗の業務も併せ行つているに過ぎないと見るべきものであるから、これによつて前示認定を左右するものではない。

成立に争いのない甲第一ないし第三号証も右認定を覆すに足らず、他にこれを覆すに足る証拠はない。

以上のとおり、交換所在の建物は独立の事業者たる良枝によつて使用されているのであるから、同人がポーラ本舗の従業員に過ぎず、右建物は原告より同本舗に賃貸されたものであるとする原告の主張は採用し難い。

2  次に、所得税法五六条によれば、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。」とされている。

良枝と原告とが生計を一にする配偶者であることは証人横地貞子の証言により明らかである。

本件において、原告が良枝から交換所在の建物につき家賃を受領していたか否かは証拠上判然としない。しかしながら、仮に、原告が家賃を受領していたとしても、右家賃は、原告が生計を一にする配偶者である良枝の営む受託販売事業に対し建物を賃貸したことにより右事業から支払を受けた対価であるから、前記規定により、右家賃額及びこれを得るための必要経費額は、原告の不動産所得の金額の計算上は存在しないものとみなされるのである。

従つて、本件処分において、交換所在の建物については原告の不動産収入金額及び必要経費が存在しないものとしたことは正当である。

四、次に原告は、竹越所在の建物の不動産所得にかかる必要経費について争うので、以下検討する。

1  公租公課

成立に争いのない乙第一八、一九号証により認められる固定資産税、都市計画税各課税標準額及び各税率に基づいて計算すれば、昭和四四年度分は二万九、一〇七円、昭和四五年度分は三万四、七四二円、昭和四六年度分は四万一、九八四円となることは計数上明らかである。

2  火災保険料

昭和四四年分の一万円については当事者間に争いがなく、昭和四五、四六年分についても各同額をもつて相当と認める。

3  修繕費

成立に争いのない乙第一四、一六号証によれば、原告は昭和四四年に日本石油輸送株式会社に右建物を賃貸するに際し、補修費七五〇円を支出し、昭和四六年に三井東圧化学株式会社に賃貸中の建物につき修繕費七、〇〇〇円を支出したことが認められる。右のほか原告が本件係争年中に修繕費を支出したことを認めるに足る証拠はない(甲第一〇号証の一ないし七、同第一一号証の一ないし一四は、建設費、本件係争年外の修繕費、交換所在の建物の修繕費、使途不明分等にかかるものである。)。

4  借入金利子、移転費、取壊費及び資材滅失額

竹越所在の建物について右費用を必要とした事実を認めるべき証拠はない。

5  備品、什器及び厚生費

竹越所在の建物について右物品、費用を必要とした事実を認めるべき証拠はない。

6  減価償却費

成立に争いのない乙第一七号証、証人佐藤武男の証言によれば、竹越所在の建物は原告が昭和四二年、同四三年に戸田建設工業こと戸田隆徳に請負わせて建築したもので、その建築費用は、昭和四二年に建築のものは一坪当り八万円、昭和四三年に建築のものは一坪当り八万五、〇〇〇円であつたので、その取得価額は別紙一〇(減価償却費の計算明細等)の番号1ないし5の物件に対応する取得価額欄記載の金額であつたことが認められる。弁論の全趣旨によれば、同別紙の番号6・7の物件の取得価額はこれに対応する取得価額欄記載の金額のとおりであることが認められる。

右取得価額を基礎として定額法による計算方式によつて減価償却額を計算すれば(所得税法四九条、同法施行令一二五条一号)、同別紙記載のとおりであつて、本件係争各年分の減価償却費の額は各八三万一、〇九七円となる。

なお、新築貸家住宅に係る割増償却については、割増償却の対象となる資産は家屋及び特定の附属設備に限られ、門、塀等の構築物(右番号7の物件)は右割増償却の対象とならない(昭和四四年法律第一五号による改正後の租税特別措置法一四条二項、同年政令第八六号附則四条三項、同令による改正前の同法施行令七条二項一号、同法施行規則六条二項)。

五、右のとおりであるから、前記不動産総収入金額からこれにかかる右の必要経費を控除した不動産所得金額は、昭和四四年分は八六万二、四〇六円、昭和四五年分は六九万六、一六一円、昭和四六年分は六八万一、九一九円である。

そして、原告の各給与所得金額が別表一ないし三記載のとおりであることは当事者間に争いがないので、本件係争各年における原告の総所得金額は、昭和四四年分は一、八四二、八五八円、昭和四五年分は一、九八八、五〇八円、昭和四六年分は二、一九〇、六六九円となる。

従つて、本件処分において被告が認定した本件係争各年の総所得金額はいずれも右各金額の範囲内であるから、本件処分には原告主張の違法は存しない。

なお原告は、昭和四四年分の扶養控除額及び昭和四五年分の損害保険料控除額、扶養控除額についていずれも被告主張額を争うけれども、右各控除額が別表一ないし三の更正及び賦課決定額欄記載の各金額を超えると認めるべき証拠は存しない。よつて、原告の主張は理由がない。

六、以上の次第で、本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 山川悦男 裁判官窪田季夫は転任のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 藤井俊彦)

(別紙 一)

昭和四四年分課税処分表

(別紙 二)

昭和四五年分課税処分表

(別紙 三)

昭和四六年分課税処分表

(別紙 四)

総所得金額等計算表

(昭和四四年分)

(注1) 「原告申告額」とは、「確定申告書」または「同申告書に添付された収支計算書」に記載された数額をいう(以下同じ。)。

(注2) 「竹越」とは、名古屋市千種区猪高町大字猪子石字竹越の略である(以下同じ。)。

(別紙 五)

(昭和四五年分)

(注) 「交換」とは、名古屋市千種区猪高町大字猪子石字交換の略である(以下同じ。)。

(別紙 六)

(昭和四六年分)

(別紙 七)

収入金額明細表

昭和四四年分

(注)1 収入すべき時期は、契約により定められている支払日によつた。

ただし、番号3(江尻薫)については、右支払日が明らかでないが、おそくとも、その月中には支払はれているものと推認されるので、歴年に従い算定した。(以下、昭和四五、四六年分についても同様である。)

(注)2 昭和四四年四月分の賃貸料は、それがどのように計算されたか明らかでないので、入居(引渡)日から月末までの日数(一三日)を、その月中の日数(三〇日)で除して計算した〇・四三ケ月分と算定した。

(注)3 原告の要求にもとづき賃借人が負担した賃借物件の補修費負担金である。

なお、これは原告の必要経費(修繕費)に算入されている。

(別紙 八)

昭和四五年分

(別紙 九)

昭和四六年分

(別紙 10)

減価償却費の計算明細等

(別紙 一一)

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